会社の夢を叶える方法を一緒に考え、 確実にゴールまでたどり着くためのサポートを。
「人に関する何でも屋さん」「私にとってクライアントというのは船であり、社長は船長」、江黒さんは社会保険労務士の仕事や彼女の仕事をこう表現します。 国家資格である社労士は、誰を相手に、どのような仕事をするのでしょうか。江黒さんの働き方や考え方を、前編と後編に分けて紹介します。

業界や業種が違う「あの人」の話を聞いてみませんか。面白い話が聞けるかもしれません。隣のビルで働いているあの会社の人、電車に乗っているこの人のこと。よく知らないだけで、仕事の価値観が合うのかもしれません。

remonade mediaでは「話をしたことのない人の話を、隣で聞いてみる」ような記事をお届けします。コーヒーでも飲みながら読んでみてください。

「記事を読んで、あなたの考え方を変えるきっかけにしてください」なんて、言いません。あなたにはあなたの信念があるから、変わらなくてもいいんです。でも人の働き方を知るときっと、自分のワークスタイルとライフスタイルを考え直すいいきっかけになります。

今回働き方を教えてくれたのは、江黒社会保険労務士事務所 代表の、江黒 照美さんです。

江黒さんのお仕事内容や普段の心がけなど、お話を伺いました。


🍋現在のお仕事は、何でも屋さん

社会保険労務士(社労士)は、昭和43年施行の社会保険労務士法により法制化された資格です。社会保障制度や働き方の複雑化が進み、企業は多くの問題を抱え込むようになりました。そこで厚生労働省管轄の雇用(助成金)・労務・社会保険・などについてのエキスパートとして国に認められた社労士が専門的な仕事を行っています。

主な業務は3つ、1号・2号・3号業務です。1号業務は行政機関に提出する書類関連の業務、2号業務は労働社会保険の諸法例に基づく帳簿書類の作成業務、そして3号業務は労務管理などに関連する相談・指導業務です。そのうちの1・2号業務が社会保険労務士だけができる独占業務です。

難しい言葉で言いましたが一言で言うと「人に関する何でも屋さん」ですね。


🍋船長が行きたい針路へ進むためのサポート役

私にとってクライアントというのは船であり、社長は船長だと思っています。社長は会社の進行方向を定めます。私がいなくても船は進みますが、社長が希望する場所までスムーズに行くためには、社長の経験や乗組員の構成、行き先そして運などのバランス次第かもしれません。私の役割は、それを運次第ではなく、乗組員たちが自分の乗った船や仕事に対し誇りに思い、会社の夢を叶える方法を一緒に考え、確実にゴールまでたどり着くためのサポートをすることです。

そのために、企業に訪問し社長・経営陣・人事担当者が今より楽しく仕事ができるよう、入社から退社まで組織における人に関する悩みについて、「法律の範囲内であっても会社のイメージにあった選択肢がある」ことを一緒に探します。例えば人事担当者と話をして、会社の方向性を確認するための方法や、社員の方が次の一歩を進めるためのアドバイスなど、法律だけでなく人の感情や気持ちへの寄り添い方も含めてアドバイスをしています。


🍋法律の中で最大限楽しむ方法を、一緒に探す

クライアント企業の社長や経営陣と私が必ず確認するポイントは3つあります。ゴール地点、そのゴールに行きたい理由、本気でそこに行きたいのか、この3つです。

労務に関連する話は当事者となるとどうしても感情が付きまといやすく、この3つが不明確になりがちです。しかしゴールをすり合わせるための確認作業を何度か一緒に進めていくと、見え方も少しずつ変わり始めます。自分の進みたい道が、法律で規制されていると思うと不満にしかなりませんが、制限があっても「こんなことができますよ」と見え方を変え、気持ちを軽くするのが私の役目です。

同じ「やる」なら、「やらされる」より楽しくやったほうがいいですよね。

(事務所には専門書から漫画まで用意されている。事務所に来る、様々な立場の人のことを考えて揃えられた本たち。)


🍋仕事がうまくいく人の特徴

私が一緒に仕事を進めやすいのは、ご自分のできないことや依頼したいことを把握している方です。「他の仕事に集中するためにAをやってほしい」「A以外はできない、B、Cをどうにかしたい」など、自分のことを理解していて、できることやるべきことを切り分けているような方は結果が形になりやすいと感じます。

社労士の助言を素直に受け取ってくれない方は役員クラスでも時々いらっしゃいます。私に向かって「胡散臭い」とか「価値があるの?」とおっしゃる方もゼロではありません(苦笑)。知識がある方ほど、提案した後に「それくらいだったら自分もできる」とおっしゃる傾向があります。コロンブスの卵の話のように立てた後の卵を見て「このやり方なら、自分にもできた」と言うのと同じですよね。それくらい、解決策というのは大きな魔法ではなく、ちょっとしたことに気づくかどうかだったりします。
人事労務関連の仕事の幅や、考慮すべき視点は法改正と共に年々広くなってきています。昔と同じだと思っている人や、成功体験がベースにあって知識のアップデートができていない人はだんだん苦労されると思いますが、そういう私自身も時代に取り残されないよう必死です。


🍋金額で得をすることであることよりも、感情を優先する人々

人間は、感情や衝動で動くことも多い生き物です。トイレットペーパーの買いだめや買占めの行動もその一つかもしれませんね。

多くの人が「自分は自分のために最もトクな方法を選べる」と誤解をしていますが、そういう選択ができる人は、実はそれほど多くないと思っているんです。前に、厚労省から受託された事業で年金事務所の相談員をしていたことがあるのですが、相談に来る方の目的は「お金を1円でも多くもらえること」です。つまり、私は「総額で得をする方法をご案内することがベスト」だと考えていました。

しかし私が担当した方の約90%が、自分が手に入るお金の総額ではなく「最も損をしていない気持ちになる選択肢」を選んでいました。つまり「自分の感情が満足する場所」をゴールとする方が多かった。「お金がいっぱいほしい」という相談だったはずなのに、1時間お話をするうちに、「お金が少なくても損な気持ちがしない」方が満足する。それだけでなく、最初からその相談だったと過去すら変わってしまう方もいらっしゃいました。その姿に「人の感情は奥深く、自分自身のことだからこそ想像する以上に扱いが難しいのだ」と意識させられました。


🍋長く続く会社の特徴

私のクライアント様に、業界や業種の偏りはありません。楽しそうという想いだけで受けていたら、マルチな状況になっていました(笑)。スタートアップから有名企業まで様々です。

社長さんは1代目の方が多いですが、2代目や3代目から老舗の方まで幅広く経験させていただき、皆様から勉強させていただいています。

(チョコレートとかわいいものが好きとおっしゃる江黒さん。Apple社のコースターはご友人からいただいたそう。かわいい、そして、きっと珍しいお品物です。)


🍋社労士の価値は見えづらい

社労士のような、形が見えない知識を提案する仕事や感情に寄り添う仕事の価値はわかりづらいと思います。事実、軽んじられることもあります。でも価値を伝えるのも、こちらの仕事なんですよね。

仕事を病院に例えると、弁護士が「症状に対して処置をする外科」であれば、社労士が行うのは「理由がわからない異変に早めに気づき、問題の予防を行なう内科」です。会社や人の細かい事情に応じて想像し考えながら、提案という予防薬を出し調整を続けます。ただ予防薬と言っても副作用が多いものではなく、どれだけ身体に効果があるかはわからないビタミン剤に近いかもしれません。

組織に一番詳しい人事担当者が「なんだかわからないけどおかしい感じ」と違和感を感じたときには、勤怠の数字やその違和感から矛盾がないストーリーを想像し、何気ない1通のメール内容から法律上必要な書類の用意まで、「どこまで細やかに対応するのか?」と台本を考えますし、その台本は会社の雰囲気や人によって違います。難しさを強調したいわけではないですが、会社は「薬を飲むだけで、悩まなくていい状態」がベストだと思います。

将来的には、健康のためにビタミン剤を自ら進んで飲むような「会社の健康経営って大事だね」と思えるクライアントを増やすことが、自分たちの仕事だと思っています。


後編はこちら>>>🍋


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